おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第26章 痴漢、再び……。
「お兄さん、彼女さん震えているから、抱き締めてあげなよ」なんて言う、周りの声に平川さんは戸惑っていたけれど、そっとアタシを抱き締めると、背中をポンポンと叩いて、「もう、大丈夫だよ」と言ってくれた。
結局、アタシ達は途中で電車を降り、昨日と同じ様に事情を説明してから会社に行く事になった。そして、アタシと平川さんは、アタシが落ち着くまで公園で休む事にした。けれど、昨日とは違うアタシ達の距離。平川さんは、アタシのすぐ隣には座らず、人一人分を空けてベンチの端に座った。重苦しい沈黙。何を話せばいいのか分からない。そう言えば、アタシ未だ平川さんにお礼を言ってない! アタシが御礼を言おうと口を開いた時、平川さんの言葉がそれに重なった。
「あの……」「あのね……」
「あ……」「あ……」
「平川さんから……どうぞ」「たまちゃんからどうぞ」
「あ……」「あ……」
そんな風に、口を開けば言葉が重なってしまう。その状況が可笑しくなったアタシ達は、同時に吹き出してしまった。そして、ひとしきり笑った後、アタシは改めて平川さんに「有難う」と伝えた。でも、何で平川さんは、あの電車に乗っていたのだろう。アタシがそれを尋ねると、平川さんは「引かないで聞いてくれる?」と前置きしてから、話し始めた。
平川さんの話によれば、始発からずっと駅で待っていたのだそう。でも、昨日の今日で自分には会いたくないだろうからと、アタシに見つからないようにして一緒の電車に乗り込んだらしい。また、アタシに何かあったら大変だからと。アタシに気付かれない様に遠くにいた為、「助けるのが遅くなってゴメンね」と言って、平川さんは目を伏せた。