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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第30章 高槻雅史という男(その2)。


 私が事務所に戻ると、食事を済ませた森脇は、自分の机で本を読んでいた。「お疲れ様です。お帰りなさい」そう言って、私に向かって微笑むと、再び本に視線を戻す。勤め始めた頃は、ぺこりと頭を下げる程度だった彼女だが、今では声に出して出迎えてくれる様になったのは、進歩・成長している証だろう。山川コンビの指導の賜物か、それとも少しずつ自信が持てる様になったからなのか。

 人見知りが激しく、コミュニケーション能力が著しく低い彼女は、昼食は弁当を持ってきているらしい。大勢が集まる社食で食事をするのは怖いのだろう。後ろに人が並ぶ中、注文が決められなくて焦る事になるのが、嫌なのもあるのかも知れない。私の場合は休憩時間くらいは外の空気が吸いたいと言う理由で、外の店を利用しているのだが。テーブルで落ち着いて注文出来るのであれば、彼女も困らない筈だ。今度、昼飯でもご馳走してやろうか等と考える。でも、私と二人きりでは、緊張して食事も喉に通らないかと、ふと思い直し苦笑した。

 休憩時間も残り五分となった所で、続々と他の者が戻って来る。その一人一人に「お疲れ様です。お帰りなさい」と声を掛ける森脇。山岡が「モニタリングのお礼」と言って、菓子の小箱を森脇に渡す。山岡と平川が森脇にそう言ったちょっとした物を渡す光景は、最近よく見かける。彼女に対する好意の表れだろうか。

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