おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第5章 平川拓斗という男(その1)。
いや、目が悪いからそこまでハッキリと見えているわけではないのだけれど、下出から溢れる殺気と言うか、醸し出す雰囲気が、アタシの身を竦(すく)ませ、そう思わせている。
物心ついてから今日まで、弱者として生きてきたアタシの本能が、そう感じているだけなのだけれど。オモチャが身体から離れた事で、少しだけ状況を考える力が戻ったせいで、それを感じ取る力も戻ってしまった。
こんな事なら、快楽に溺れたままの方が良かったかも、なんて思いながら、ビクビクしていると、下出はゆっくりと立ち上がり、アタシに近付いてきた。
きっと、罵声を浴びせられたり、殴られたりするんだ。アタシはそれが怖くて、ギュッと強く目を瞑り、身を縮める。
「はい。そこまで」
誰かの声がそう言うと、目の前に迫って来ていた下出の気配が、スッと遠ざかったのを感じた。
「森脇さん、大丈夫?」
柔らかい声がそう言って、アタシの頭を優しく一撫でする。アタシが恐る恐る目を開けると、心配そうな顔をして、平川さんがアタシの顔を覗き込んでいた。
優しい平川さんの瞳に、安堵したアタシの膝は力を失くし、崩れそうになったが、手を縛り付けられていた為、倒れる事はなかった。