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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第7章 坂内龍弥という男(その1)。


 声の主がそう言うと、アタシの身体はフワッと浮き上がった。抱き上げられたのだ。しかも、お姫様抱っこで。

 吃驚して暴れると、「落としちゃうから暴れないで」と男の人が焦った声を上げる。高槻さんよりも年上なのだろうか。落ち着いた雰囲気の男の人だった。

 「何ともないから、下ろして」と訴えると、男の人は「打ちどころが悪かったら大変だから」と言って下ろしてくれなかった。そして、アタシは医務室へと連れていかれた。

 医務室に届けられたら、その男の人は自分の仕事に戻るだろうと思っていたのだが、彼は私の手当が終わるまで、待っていた。大した怪我もなく、転んだ拍子に腰を床に叩き付け、青い痣が出来たくらいだと言うのに。

 診察中に、部署を尋ねられて、AD部だと答えると、先生は納得した様に頷き、暫く横になっている様にと言った。

 あの場所に戻らなくてもいいのは有難い。だからアタシはお言葉に甘えて、ベッドに横になった。アタシが目を閉じると、先生はカーテンを引いて、アタシを一人だけにしてくれた。

 消毒液の匂いを嗅ぎながら、中学や高校の時も、よくこうやって保健室で横になっていたな、なんて思い出す。

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