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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第43章 予兆。


 それから、マスターは、"とっておき"のバーボンを開けてくれた。まあ、バーボンの値段なんて、ワインやブランデーの最高級品に比べれば、たかが知れている。だが、バーボンが好きな俺としては、結構嬉しかった。

 俺はカウンターで一人、グラスを傾けながら、今頃、ヤマに抱かれているであろう、モリーの事を考える。王子に言い寄られても傾かないモリーが、俺が好きだと言ったところで、俺に傾くとは思えない。俺は「俺のやり方で、彼女を愛そう」と思う。彼女の心を守る。それが、今の俺に出来る事。そう決心した矢先に、それが現実になるとは、思っても見なかったのだけれど。

 人の運命なんてものは、一秒先の事は、予想が出来ても、その通りになるとは限らなくて。ヤマとモリーの恋に何が影響するとか、その時の俺には分かっていなかった。

 "カランカラン"と小気味良い、ドアベルの音が鳴り、一人の女性が入って来ると、真っ直ぐにカウンターへと向かって来る。「こんばんは」と言われて振り向けば、そこに立っていたのは、マスターの奥方であり、ヤマの現在の母親である女性だった。

 「あら、一人なの? 一徹君と一緒じゃなかったの?」

 そう言って女性は、俺の隣に座る。マスターは、娘さんはどうしたのかと尋ねると、女性は寝かしつけて来たと答えた。

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