おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第43章 予兆。
「一徹なら、もう帰ったよ」と言いながら、マスターは彼女にアイスティーを淹れたグラスを差し出した。彼女はそれを受け取ると、ストローで一口飲み、それから「どうして家に寄る様に言ってくれなかったの?」とマスターに尋ねる。マスターは笑って、「彼女と一緒だったから、家には寄らずに帰ったんだろう」と言う。その瞬間。ほんの一瞬、彼女の顔が凍り付いたのを俺は見逃さなかった。
「あら、そうなの? 27にもなって、彼女が出来ないのを心配していたんだけど……。やっと出来たのね。良かったわ」
そう言って、彼女は笑顔を見せると、マスターも「これで一安心だな」と言って微笑む。そして、ゴールデンウィーク中に遊びに来た時の様子などを打ち明けた。マスターが話している間中、彼女はニコニコしながら聞いていたが、俺はさっき彼女が見せた"凍り付いた顔"が頭から離れなかった。
「アナタ、一徹君と連絡を取ってるの? それなら、小百合(サユリ)が寂しがってるから、時々帰って来るように言ってよ?」
「ああ、そうだな。でも、アイツももういい年だし、忙しいだろう? 小百合もそろそろ、「お兄ちゃん離れ」ってぇヤツの時期なんじゃないのか?」
「そんなの! あの子はまだ、小学一年生よ? まだまだ、家族に甘えたい時期だわ。ねぇ、川上君? 一徹君、引っ越し先を教えてくれなかったんだけど、君、知らないかしら? 小百合がね、会いたがってるの。もし、知っていたら教えて欲しいんだけど……」
彼女は、そう言うと俺に向かって、掌を合わせた。