おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第43章 予兆。
「一徹の引っ越し先なら、書類があっただろう? 保証人になったのは俺だし、多分、どこかの引き出しに入れておいた筈だけどな……」
マスターがそう言うと、百合さんは目を輝かせて、「そうなの?」と確認する様に、マスターに尋ねる。マスターは、自分の机の引き出しの中にある筈だと伝えると、百合さんは「分かった」と言って、椅子から立ち上がる。
「ご馳走様。それじゃあ、帰るわ。小百合が心配だし」
そう言ってマスターに笑顔を向けると、マスターはフロアに出て来て、百合さんを出口まで見送る。「気を付けて帰るんだよ」と言って、彼女の額に口付けを落とし、見送るマスター。彼は、さっきの彼女の凍り付いた表情を見ただろうか。
あれは、恐らく嫉妬。母親が、息子を恋人に盗られると言う感覚なのか。それとも……。
彼女はヤマを産んだ実の母親ではないし、しかも元恋人だ。だから、母親としての嫉妬と言うよりも、女としての嫉妬の方が強いんじゃないだろうか。ヤマを裏切って捨てたのは、自分のクセに。随分と身勝手なんじゃないだろうか。
百合さんが店を出て行く後ろ姿を見ながら、そんな事を考える。小百合ちゃんがヤマを恋しがっているのは、本当の事だろうと思うけど。それを理由に、わざわざ店にまで、足を運ぶんだろうか。彼女自身がヤマに会いたかったんじゃないのだろうか。そう思うと、俺の胸がザワついた。