おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第44章 突然の訪問者。
靴を脱ぎ終えた山岡さんの腕を、待ってましたとばかりに引っ張って廊下を進む小百合ちゃん。山岡さんは、「ちょっと、引っ張るなって」と言いながらも、彼女には逆らわず後をついて行く。
アタシはどうしたらいいんだろう。このまま上がってもいいものだろうか。先程の小百合ちゃんの視線は、完全にアタシを邪魔だと言っていた。あの強い視線を思い出して身体が震えそうだ。小学生の女の子を相手に何をビビッているんだろう。アタシは山岡さんの「大事な人」なんだから。山岡さんは、アタシと一緒に過ごす為に家を出て、このマンションを借りてくれたんだから。だから堂々としていればいいのに。どうしても、中に入る事が出来なかった。
「珠子? どうした?」
小百合ちゃんに手を引かれて、一度奥へと引っ込んだ山岡さんが、アタシの事を心配して戻って来る。腰には小百合ちゃんがしがみついたまま。
「折角の兄妹水入らずだし、今日は帰ろうかな……って」
「え? 何で? 別に俺は気にしないけど?」
「うん。でも、やっぱり帰るよ。後で電話するね?」
アタシはそれだけ言うと、踵を返して玄関の扉を開けて素早く廊下に出る。背中で押す様に扉を閉めると、自分の身体が震えているのに気付いた。