おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第45章 絡まる糸(その1)。
「たまちゃん、具合はどう?」
そう言って平川さんが、アタシの顔を覗き込む。眉間に刻まれた皺が、アタシの体調を真剣に心配してくれている事を物語る。だけど、原因を訊かれても、山岡さんと過ごせなかった事で悶々として眠れなかったなんて、二人には言えない。だから、電車が混んでいて気持ちが悪くなっただけだと、誤魔化したのだけれど。平川さんはお見通しだったみたいで、「ヤマが謝った事と関係あるんでしょ?」と尋ねてきた。
「そうだとしても、平川さんには関係ない事です」
アタシはそう言ってから、「しまった」と思った。アタシを心配して訊いてくれているのに、こんな言い方はない。これでは、平川さんを傷付けてしまう。そう思っても、後の祭りだ。言ってしまった事は取り消す事は出来ない。
アタシって本当に嫌なヤツだ。入社してから三カ月が過ぎ、部署の皆さんと話す事に慣れたアタシは、自分の気持ちを上手くは表現出来ないけれど、言葉にする様になっていた。以前は、自分の言葉で誰かを傷付けるのが怖くて、何も言えなかったのに。こんな事を言うくらいなら、前のアタシの方が良かったんじゃないかって思う。それなのに、平川さんは「そうだよね」と言って、笑みを浮かべながらコーヒーを口に含んだ。