おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第8章 池田悠と言う男(その1)。
(これじゃあ、穿けないや……)
アタシはストッキングを諦めて、スカートを穿く。中には、新しいスーツとブラウスが一式入っていたけれど、アタシは両親が買ってくれた、スーツを身に付けた。最後に眼鏡を掛け、ゴミを片付けてから、カーテンを開け放つ。すると先生が、丁度コーヒーを淹れてくれたところだった。
「着替え終わったみたいですね。それでは、こちらへどうぞ」
先生はそう言って、アタシを窓際に設えてあるソファへと腰を掛けるように促した。アタシが腰を下ろすと、前のテーブルにマグカップが置かれる。
消毒液に混じってコーヒーの芳ばしい香りが漂う。「消毒液臭くて、あまり美味しいと感じられないかも知れませんが」と言って先生は笑い、アタシの前に腰を下ろした。
アタシは暫く言い淀んでいたのだが、先生は苛々する事もなく、黙ってアタシが口を開くのをコーヒーを飲みながら待っていてくれた。
「考えが纏(まと)まらないのなら、頭に浮かんだ事からでもいいですよ?」
そう言われてホッとしたアタシは、子供の頃からのトラウマや入社式の後に起こった出来事、そして自分の身体の変化について、少しずつ話していく。
その間、先生は時折、相槌を打つ程度で、話の腰を折るような事はなかった。