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おもちゃのCHU-CHU-CHU★

第8章 池田悠と言う男(その1)。


 長々と話し終えて、一息吐く。コーヒーを頂こうとして、それがすっかり冷めていた事に気付いた。先生は、「淹れなおします」と言って、アタシのカップを受け取り、新しく淹れなおしてくれた。

 窓の外を見ると、すっかり陽が傾いている事に気付く。どれだけ長い時間、話を聞いて貰っていたのだろう。先生の仕事の邪魔をしてしまった事に気付き、アタシは心の中で「しまった」と思った。急病の人が尋ねて来なかったのが不幸中の幸いと言ったところか。

「そう言えば、森脇さん。お腹、空いていませんか?」

 先生はアタシにカップを渡しながら尋ねる。そう言われてみれば、昼食を摂っていなかった事に気付いた。そして、気付くと急にお腹が鳴りだす。その音を聞いて、先生は身体を捻り、肩を震わせた。

 笑われた事が恥ずかしくて俯くと、「実は、私も今、お腹の虫が空腹を訴えましてね。同時に鳴ったものですから、可笑しかったんです」と言って茶目っ気たっぷりにウィンクした。

「坂内部長から、早退しても良いと許可を頂いておりますし、この後、お食事でもいかがですか?」

 そう言われて、はたと気付く。アタシが着替える前、廊下で待っていると部長は言っていなかったかと。

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