おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第51章 【番外編】真夏の出来事(その2)。
いつもは川上さんとふざけている所為で忘れてしまうけど、山岡さんもイケメンだ。そしてアタシよりも経験豊富なお兄さん。ちょっとした仕草に、男の人の色気を感じてまたもや心臓がドキドキと暴れ出す。きっとアタシの顔は赤くなっている筈。だけど、夕陽がそれを隠してくれている事に感謝せずにはいられない。それでも、顔を上げていられなくて俯くと、山岡さんは「夕陽、見ないの?」と言って顔を覗き込んできた。
それが思いの外近くて。アタシの目は山岡さんの瞳に釘付けになる。アタシが微動だにせずに山岡さんの瞳を見つめていると、ふと目が細められ、ゆっくりと顔が近付いてくる。「ああ、キスをされるんだ」と思って目を閉じると、不意にグイッと顔を引き離された。
「そこまでだよぉ。居なくなったと思ったら、二人っきりでこんな所で何やってんのさぁ?」
そう言う声が頭上から降り注ぐ。見上げれば腰に手を当てて仁王立ちしている、川上さんの姿がそこにあった。
「近付いても気付かないなんて、どんだけ二人きりの世界になってたのぉ? ちょっとムカつくんですけどぉ?」
川上さんがそう言いながら、腕を組んで山岡さんを軽く睨む。山岡さんはその視線を受け、バツの悪そうに頭を掻いた。
「あはは……。悪い。モリリンが可愛くて、つい……」
「はいはい。ヤマの気持ちも分かるけどさぁ。皆で決めたでしょぉ? モリーは皆で可愛がるって。今日の晩御飯を抜かれても知らないからねぇ?」
「それは! ……困る。一番楽しみにしてたし」
「だったら、戻るよぉ? ほら、モリーも帰ろう? 陽も沈んだし、冷えるからねぇ」
川上さんはそう言うと、アタシの手を取り立ち上がらせてくれた。気が付けば陽は海の向こうに沈んでいて。水平線だけが夕陽の名残を示す様に、未だオレンジ色に染まっていた。