おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第51章 【番外編】真夏の出来事(その2)。
『森脇さんっ! 上っ!!』
突然、インカムからアタシの鼓膜を貫く様な、坂内部長の鋭い声が響いた。何事かと、言われた方向を見上げれば、岩の上でニコニコしながらアタシを見下ろしている平川さんと目が合ってしまった。咄嗟に身構えようとしたけれど、長い銃身が岩に引っかかってしまい、逆に銃口を突き付けられる。
(終わった……)
そう思い目を閉じると、重みのある何かが地面にぶつかる音が聞こえた。目を開くと、平川さんの広い背中がアタシを庇う様に前を塞いでいる。どうやら、岩の上から飛び降りたらしい。顔を見上げると、平川さんは辺りを警戒するように見回していた。そして、「こっちだよ」と言って、アタシの手を引き走り始める。アタシが、どうして助けてくれるのかと尋ねると、「王子ってお姫様を助けるものでしょ?」っと言って笑う平川さん。
ああ、眩暈がする。眩しいと感じるのは、夏の太陽の所為かしら? それとも、平川さんの笑顔が輝いている所為? 平川さんが、白馬に乗った王子様に見えちゃったよ。いや、一般的な感覚で見たら、間違いなく王子様なんだろうけど。
それから、アタシは平川さんのお陰で、下出と川上さんに見つかる事なくその場を離れる事が出来た。アタシよりも島の地形に詳しい平川さんの案内の下、アタシ達は、昨日連れて行かれた洞窟の、山側にある入口に辿り着く。岩に背中をピタリとくっつけ、警戒しながら中を覗く平川さん。手には水鉄砲を構えている。アタシも「何かあったら応戦しなくては」と銃を構えて、外に注意を向けた。
「うん。大丈夫そうだね」
平川さんは、振り返るとアタシにそう言い、中に入る様に促す。ピンチを助けて貰った恩人である、平川さんに心をすっかり許したアタシは、促されるままに中に足を踏み入れた。
その時だった。グイッと誰かに腕を掴まれ、壁に押し付けられ口を手で塞がれる。明るい所から、急に暗い場所に移動したばかりで、目が慣れていないアタシは、恐怖で身体が竦み声も出す事が出来なかった。平川さんは「大丈夫そうだ」って言ったのに! あの確認は何だったの!? ひょっとして、アタシは騙されたの? あの爽やかな笑顔は、アタシを騙す為だったの!?