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第51章 【番外編】真夏の出来事(その2)。


 大袈裟かも知れないけれど、緊張と驚きと恐怖とでアタシの心臓はバクバクと胸の中で暴れ出す。呼吸も荒くなり、抑えられた指の隙間から、「ふーっ、ふーっ」と興奮した猫が吐き出す様な音が漏れた。

「ごめん、ごめん。モリリン、落ち着けって。俺だよ。山岡だよ。攻撃するつもりはないから。大丈夫だから……」

 そう言って手の主はアタシの顔を覗き込む。見慣れた瞳は山岡さんの物だった。山岡さんはアタシを落ち着けようと、岩から引き剥がすと抱き締めて背中をポンポンとあやす様に叩いてくれる。すると、アタシの呼吸も心臓も、次第に落ち着いてきた。ふと洞窟の入口に目をやると、平川さんが辺りを警戒しながらも、口元に苦笑を浮かべていた。

 暫くは外に注意を向けていた平川さんだったが、大丈夫だと判断したのか、警戒を解くとアタシ達の方へと歩み寄って来る。そして、山岡さんに向かって「大丈夫だった?」と尋ねた。山岡さんは平川さんの問いに頷くと、「取り敢えず奥へ行こう」と言って、アタシの腕を引く。どう言う事なのか、状況を把握出来ないアタシは、目を白黒させながら山岡さんに導かれるままに、洞窟の奥へと進んだ。

 入口からの薄ぼんやりとした光だけしかないけれど、次第に目が慣れて来たお陰で、何となく周りが見える様になった。アタシ達はなるべく音を立てない様に注意しながら、洞窟の奥の岩に腰を下ろすと、山岡さんが状況を説明し始める。

 どうやら、山岡さんと平川さんは、不慣れなアタシの為に共闘をして守ってくれるらしい。お二人の足手まといになるから、そんな事はしないで欲しいと伝えると、「これは坂内部長の指示でもあるから」と言って、お二人は引き下がらなかった。

「まあ、部長の指示がなくても、最初からたまちゃんは守るつもりだったけどね」

「俺もそのつもりだったよ。だってさ、女の子一人だもんな。それも初心者。そんな子がカワに勝てるワケないもんな」

 肩を竦めながらそう言うお二人に、アタシは川上さんが喜々とした表情で下出を追い掛けていた事を思い出し、ゴクリと喉が鳴る。

「川上さん、そんなに強いんですか?」

「強いと言うよりもさ、容赦ないよね」

「ああ。モリリンなんて、ひとたまりもないと思うよ?」

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