おもちゃのCHU-CHU-CHU★
第10章 山岡一徹と言う男(その1)。
その中には業界の人が持っていそうな、メイク道具が所狭しと並んでいた。山岡さんはその中から、コットンと透明な液体が入っている小瓶を取り出すと、その液をコットンに滲ませた。
そして、そのコットンでアタシの顔を丁寧に拭いていく。その後、化粧水やらクリームやら、色々な物を顔に塗りたくられ、山岡さんはアタシにメイクを施していった。
その間、妹さんの話やら、ご自分の職歴やらを一方的に話す。それは多分、山岡さんの気遣いなんだと、アタシは途中で気付いた。会話にしてしまうと、アタシが困るだろうから。
そうこうしている内に、どうやらメイクが完了したらしい。ニコニコと笑いながら、山岡さんが鏡を手渡してくれる。
そこには、アタシであってアタシでない、別人の様なアタシがいた。山岡さんの腕がいいからだろうか。自分で言うのもなんだけど、可愛い。
「どう? 可愛いだろ? 女の子はね、メイクで武装するんだよ」
そう言うと山岡さんは、後ろから鏡を覗き込んで、鏡の中のアタシに微笑んだ。
「これで、モリリンも戦える女の子になったよ。だから、自信を持って!」
そう言って頭をポンポンと撫でてくれる山岡さん。こういうお兄ちゃんがいる妹さんが羨ましいなと、アタシは思った。