方位磁石の指す方向。
第1章 scene 1
追いかけるだけの恋。
切ないのはわかってる。
だって、智くんは…。
智くんに近付くほど、
俺から離れて行くような気がして。
怖い。
この関係を壊すことに。
智くんの気持ちと、
俺の気持ち。
いつもいつも、
すれ違ってばかりだ。
「…翔さん、あの…」
「ん?」
「やっぱり、具合、悪いんですか?」
「……んー」
わからない。
自分は今、
どんな顔してるんだろう。
「…翔さん、無理はしないで。」
……うん。わかってる。
じゃあ頑張って。
二宮もな。
うん。
小さなその背中が、
南校舎へ駆けていった。
…あ、雅紀たち行っちまった。
「…んー」
…サボったら、
怒られるかな。
先生じゃなくて、二宮に。
それから、雅紀たちにも。
「…具合、悪いのかな…。」
俺の足は教室ではなく
さっき通ったばかりの
生徒玄関に向かっていた。
サボりなんて、初めてだ。
したこともなかったし、
したいと思わなかった。
だけど、今は…。
今だけは。
許して欲しい。
「……どーしよ。」
今家に帰ったって、
鍵がかかってる。
鍵なんて持ってないし…。
…それに、印象悪い。
智くんや雅紀たちに
なんて言われるだろう…。
それから、二宮にも。
…俺、本当にどうしたいんだろ。