方位磁石の指す方向。
第1章 scene 1
「…と、とりあえず帰ろうか。
ね?和?」
「え、あ、うん」
智のあとを追い、
俺らは翔さんたちとばいばいした。
ちょっと歩いて、
智が立ち止まった。
…と思ったら、
ブロック塀に体を押し付けられた。
「痛っ…なにすんだよ!」
「…こっちの台詞だよ…。
何言ってくれてんだよ!」
「はあ?」
智の声は少し震えていて
涙が溢れ出しそうだった。
「せっかくうまくいってんのに…
なんでぶち壊すようなこと言うんだよ!」
「…何怒ってんだよ!
意味わかんねえよ!」
「さっき…。
男が男を好きとか、気持ち悪いって
お前言ったじゃねえかよ!」
…それが、なんだよ…。
「あぁ、言った。
それがなんだよ!
ほんとのことじゃねえか!
そんなの世間から見たら
おかしいだろ!?」
「おかしくない!!!」
そう言ったっきり、
俺たちは何も言わなくなった。
最後に、吐き捨てるように
智がこう言った。
「…もう、俺たちの
グループに入んないで。
お前なんか大っ嫌いだ。」
呼吸が、止まった。
気付いたら、智はもういなくて。
俺は一人でブロック塀に
寄り掛かっていた。
…何がおかしいんだよ。
男が男を好きとか、
有り得ないだろ。
なんで平然としてられるんだよ。
そんなの…おかしい。
俺は絶対に認めない。
こっちだって、
もう関わりたくねえよ。