方位磁石の指す方向。
第8章 scene 7
…翔さんに電話がしたい。
だけど…。
ボタンをタップしたその先が怖くて、
俺はまだ何も出来ずにいる。
でも、その先を望めば
少なくとも安穏の日々に
浸かることが出来るのだろう。
…妙案な気がした。
これ以上のない救いに思えた。
それならば、
今電話しても悪くないと考えた。
「─────」
なのに、
道端の上の俺の体は
欠片も動いてはくれない。
膝だけが、
バカみたいに震えてる。
その震えを止めようと手を伸ばし、
腰を曲げた途端に膝が落ちた。
…幸い、道がなだらかだったため、
痛くもなんともなかった。
崩れ落ち、まるで夕空に
土下座をするような体勢になって、
俺は自分の浅ましさに唇を噛んだ。
すっと立ち上がり、
足についた汚れを払う。
…あと、たった1歩が。
俺はこんなに…
こんなに簡単なことも…。
───勇気が足りなくて、できないんだ。
追い詰められておきながら、
衝動に負けて弱い決断を
実行に移すことも出来ない。
決意や覚悟などは、
滑稽なほど脆く、
ただただ涙を流すのが
今の俺の有様だったのだ。
生きている意味がわからないのに、
死んでしまうことも怖くてできない。
自分が情けなくて、
見苦しくて、
俺は地面を睨みながら
呻き声を上げ続ける。
体力が尽きるまで、
自分の惨めさを涙を流しながら
悔やみ続けていた。