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方位磁石の指す方向。

第8章 scene 7






…わかっていた。

自分が情けなくて、弱くて、
無力なことくらい。


なにもできないんだ。

態度だけでかい。そんなヤツだから。


…でも。

変わりたい。

こんな自分、もう嫌なんだ。


…でも、

俺は、なにもできないからっ……


ぐっと奥歯を噛み締め、
泣きたくなるのを堪える。

ここで泣いたら、ダメだ。

気持ちを正直に伝えなきゃ、
ダメなんだ…。


震える指で、
スマホをタップする。

すぐに通話画面に切り替わり、
"翔さん"と表示されるそれをタップする。


軽快な音楽が流れたと思えば、
すぐに翔さんに繋がる。


『…二宮?どうした?』

「あのっ、ごめんっ…俺、あの、
翔さんっ……」

『だ、大丈夫か…?
今、どこに───…』

「俺っ、翔さんに会いたい!
今すぐ、今すぐに会いたい!」

『…二宮?』


傍から見たら、
キチガイだろう。

それに…伝えたいことを
整理していなかったせいで、
本題を先に言ってしまった。


『ごめん、今からは──…』

「俺、翔さんのこと好きなの…
だから、会いたい…今すぐに会いたい…

我儘言ってるのはわかってるよ…
だけど、会いたい…会ってちゃんと
話したいよぉ…」


ぐすぐすと鼻を鳴らして、
溢れ出る雫を掬い取る。


『…今どこにいる?』


長い沈黙のあと、
翔さんの声が聞こえて。


「いつものっ…公園っに、いる…っ」

『わかった、すぐ行くから…』


動くなよ?って言われて、
電話を切られた。

…あぁ、やっぱり。

やっぱり俺は、
翔さんが好きなんだ…

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