方位磁石の指す方向。
第9章 scene 8
優しく二宮の頬に触れ、
その感触を確かめる。
夢なんかではない。
現実だ。
俺が今生きているのは、
現実なんだ。
社交辞令ばかりの面倒な世の中も、
二宮を見れば少しばかり
落ち着いた気がした。
好きだと。
俺は心から二宮を愛していると。
頬に指を沈めれば、
小さな呻き声が聞こえ、
肩が微かに動いた。
「…好きだよ。」
俺はお前のことが、
心から好きだと言える。
嘘なんかではない。
この気持ちは、嘘ではない。
この寝顔を、
この震える睫毛を、
この柔らかな唇を、
この愛おしいたったひとりの人間を。
俺は好きになったのだ。
「……好きだ。」
もうどうしようとないくらい、
俺はお前が好きだ。
口に出すだけでは、
もう足りない。
お前のすべてが欲しい。
今すぐにでも。
無理矢理、
奪い去ってしまいたくなる。
二宮なら抵抗はしないだろうが、
それでは二宮のすべてを
奪い去ることはきっとできない。
なんて、浅はかな考えを
しているのだろうか。
無理矢理だなんて、
絶対にダメだ。
大切にすると、大事にすると
決めたのだから、
無理にだなんて、してはならない。