方位磁石の指す方向。
第9章 scene 8
愛おしい。
そう思うほど、
伝えられない言葉もある。
何気ない日々の中で伝える
感謝の気持ちも、
こんなにも好きなのに
好きと言えず
躊躇う気持ちも。
───今なら、伝えられる気がした。
今の俺なら、伝えられる。
「…二宮…ありがとう…
いつもありがとう。
本当に感謝してるよ…。」
二宮の髪に触れながら、
耳元に囁くようにして呟く。
多少の恥じらいと、
面と向かって言えない後ろめたさ。
俺の伝えたい想いを、
すべて詰め込んで言ったつもりだ。
「…好きだ。
二宮が好きだ。」
二宮の髪から、頬に手を移し、
優しく撫でる。
一瞬、眉を顰めたが
またすやすやと眠ってしまう。
…あぁ、なんて…
なんていじらしいんだろう。
どうしてこうも、
俺を惹き付けるのだろう。
お前はどうしてこんなにも、
綺麗なままなんだろう。
あぁ、このまま───
このまま時が止まってしまえばいいのに。
ふたりだけの世界に
ずっとずっと入り浸れるのに。
太陽が早く沈んでくれることを願う。
そしてどうか、
月は俺達を照らしてくれ。