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方位磁石の指す方向。

第10章 scene 9

櫻井side



気を抜いたら、すべてが出そうになる。

…辛いのは、二宮なのに。

優しくしてやりたいのに、
全然俺はできていない。

むしろ、
自分のことで精一杯で
余裕なんてどこにもないんだ。


…あぁ、そうだ。

俺は最低だ。


辛いのは、二宮なのに。

なんの声もかけてやれない。


「っは、ぁ、」


耳元にかかる二宮の吐息。

…熱い……。


妙に緊張しているのは、
二宮のせいなのか、

はたまた、
この空気に酔ったのか。


どちらにせよ、二宮を見たら、
理性なんて崩れてしまいそうで。

潤んだ瞳が俺をしっかりと捉えていて。

…期待に、応えてやりたいのに…

ここから先に、どうしても進めない。


負担を、かけたくない。

負担を、かけない。


…だめだ……。


「…しょ、さん…?」


二宮を名前を呼ばれて
初めて気が付いた。


…俺、泣いてる………?


…あぁ、そうか。

嬉しいのか、俺。


バカみたいに、涙が温かい。


「…二宮、好きだ…っ……」

「ぅわっ、」


二宮を抱き寄せて、
ゆっくりと腰を動かした。


時折、辛そうな表情も見せたが、
二宮も嬉しそうに泣いていた。


「っあ。…しょうさっ…ふっぅ…」


溢れる涙が、お互い温かくて。

ふたりで目に涙を浮かべながら
ゆっくりと時間をかけて、
愛し合っていた。

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