方位磁石の指す方向。
第11章 scene 10
生肉を与えられた犬は、
もうドックフードじゃ我慢出来なくなる。
俺だって同じだ。
翔さんからたくさんの愛をもらう度、
抱き締めてもらえるだけじゃ、
キスしてもらえるだけじゃ、
もう足りないんだ。
だからと言って、
俺はあの行為が好きなわけではない。
むしろ逆で、大嫌いだ。
痛いし辛いし、具合が悪くなる。
だけど、あの行為をすることによって
翔さんが俺に優しくしてくれるから。
欲しい言葉を全部言ってくれるから。
『愛してる。』
『ずっと一緒にいよう。』
『お前しか愛せない。』
────だから俺は嫌いな
あの行為をすることで
勝手に満たされていたんだ。
翔さんのセックスは優しかった。
乱暴じゃないし、そんなに痛くない。
…気持ちよくはないけど。
でも、俺は満たされていた。
幸せになれていたんだ。