方位磁石の指す方向。
第11章 scene 10
「翔さんっ」
「ん?」
目の前にある顔が、薄暗い中でも
しっかり見えていて。
それだけでも緊張するのに、
柔らかく微笑まれなんかしたら…。
震える唇をなんとか動かして、
伝えたかった言葉。
「…ありがとう。」
それだけ。
ありがとうって、ただそれだけ。
俺のそばにいつもいてくれて
ありがとうってこと。
好きになってくれて
ありがとうってことも、全部。
俺のありったけの想いを、
全部この言葉にのせた。
「…ふは、こっちこそだっつぅの。
お前に助けられてばっかだしな。」
顔をくしゃくしゃにして、
俺の頭を撫でる翔さん。
その手が優しくて、…本当に優しくて。
思わず涙が零れそうになる。
好き、なんだ。
こんなにも。