方位磁石の指す方向。
第2章 scene 2
それからのことは覚えてない。
気付いたら、家にいた。
それで多分、寝ちゃった。
シワになったスラックス。
涙の跡。
まだ唇に残る温もり。
あぁ、なんなんだろう。
なんて表現したら伝わるだろう。
この複雑な気持ちは。
嬉しいのに、悲しい。
悲しいけど、嬉しい。
好きだけど、嫌い。
矛盾してるのに。
なのに。
完全否定はできなくて。
「和ー?」
「入ってくんなっ!」
枕を智に投げ付けたら、
うって呻く声。
「…和?」
「来ないでよ!
プライバシー侵害だ!」
俺がぎゃあぎゃあ言ってても、
智は入ってきた。
「…翔ちゃんと、どう?」
「…言いたくない。
喋りたくない。あっちいけ。」
「…言いたくないなら、
言いたくなるまで待つよ。」
そういった智の顔は、
いつもより三倍くらい優しかった。
悲しいときに優しくされると、
すっごい嬉しくて。
…でも、これが翔さんだったらな、
なんて考えてる自分がいて。
翔さんなんて嫌いなハズなのに、
あのキスが忘れられなくて。
…俺、なに考えてるのかな。
全部全部、智に話した。