方位磁石の指す方向。
第11章 scene 10
泣きたくないのに、出てきてしまう。
翔さんのことを想うと、
胸が痛くなってしまう。
さっき、ばいばいしたのに。
まだ引きずってるんだ。
『メールするから』
って、言ってくれた翔さん。
困らせてるのは、俺。
我儘なのは、俺の方だ。
「…ふ……っ……」
…どうしよう。俺。
こんなに弱い人間だったのかな。
「……っ、」
明るくなった画面。
“翔さん”の文字。
…本当は、文字なんかじゃ嫌だ。
携帯の文字なんか、もっと嫌だ。
俺のありのままの声を届けたい。
翔さんの声を聞きたい。
それもちゃんと、顔を見て。
好き。って、伝えたいんだ。
顔が赤くなるのは、好きだから。
体の震えが止まらないのも、好きだから。
…だって俺、翔さんが好きなんだもん。