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方位磁石の指す方向。

第11章 scene 10

櫻井side



『翔さんっ…』


電話口からでもわかる、
焦ったような声。

そんな二宮の声は、さっきよりも
震えていなくて。


『翔さん、ごめんなさいっ…』

「…ん、俺の方も悪かったから…」

『違うっ…俺が困らせてるから…
俺が、我儘ばっかりだから…』

「んなことないって、言ったじゃん。
二宮だけのせいじゃない。
俺だってちゃんと見てやれてなかったから、
彼氏失格だろ?」

『そんなことっ…』


それっきり、何も喋らなくなってしまった。

…いや、正確には、喋れなくなったんだ。


ただ、怖かった。

二宮が離れていきそうで。

二宮が俺から離れていきそうで、
怖かっただけなんだ。


「…なぁ、二宮……」

『…うん。』

「俺たちのこと、真剣に考えような。」

『……うん。』


そうだね。だなんて、
いつもの明るい声じゃない。

重くて、切な気な声だった。

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