方位磁石の指す方向。
第13章 scene 12
バカみたい。
さっきまであんなに泣いてたのに、
今となっては全然涙は出てこない。
黙って前を歩く翔さんの手を離さないように
力を込めて握っている。
泣きたくないし、困らせたくないのに
いつも迷惑をかけているのは俺だ。
原因は俺なのに、
翔さんは俺を責めない。
話しかけたり、問い詰めたりしない。
その方が居心地がいいって、
翔さんは知っているから。
「……ごめん。」
「ん?なにが?」
「迷惑かけてるから…」
だって俺、迷惑しかかけてないよ。
なのに、翔さんは…
「いいよいいよ。
俺の見えないとこで泣かれるよりも
俺の見えるとこで泣いてくれた方が
全然いい。…心配するし。」
…なんで。
なんでいつもと変わらない笑顔で
そんなカッコいいこと言っちゃうんだよ。
余計に惚れちゃうよ。俺。
「それに、俺に迷惑かけないで
誰に迷惑かけんの?
俺、二宮の…和也の彼氏だから。」
「っ……もうっ、なんでそんな
カッコいいこと言っちゃうんだよ!」
そんな風に俺が喚き散らしても、笑って
「好きだからだよ。」
って、変わらない笑顔で言っちゃうんだ。