方位磁石の指す方向。
第15章 scene 14
櫻井side
「でけー…」
借りたマンションは、
まだ真新しかった。
ワンルームマンション。
今日からここが、俺の家。
防犯バッチリ。
通信環境バッチリ。
足りないのは、あの人だけ。
「…二宮…」
呼んでいても、いないのは知っている。
振り向いても、いないのは知っている。
「……だめか。」
携帯は繋がらない。
きっと今頃、泣き止んだだろうか。
『今着いたよ。』
二宮に送れば、すぐに既読がつくものの。
返信はなし。
…まだ泣いているのか。
『電話していい?』
そう送れば、返信よりも先に、
二宮から電話がかかってきた。
「あ、もしもし?」
『翔さぁあんっ…』
「ふは、まだ泣いてんの?」
『だってえ、だってぇえ…』
会いたい、と連呼する二宮。
「ビデオ通話に、する?」
『やだあ。』
そのくせして、ビデオ通話は嫌がる。
自分の今のひどい顔を
見せたくないらしい。
「元気にしてろよ。」
『翔さんがいないから、むりだよぉ…』
いつからこんなに、
寂しがり屋になったのか。
電話を切りたがらないくせに、
ビデオ通話は拒む。
「また帰るから。」
『いつっ!』
「んー、そのうち?」
『ねえっ、はっきりしてよー!』
死んじゃうよ!?と、
脅しに近いことを言ってくる。
「…あ、そろそろ業者さん来るから、
またかけ直す。」
『やだぁ、』
「またすぐ。ね?」
『やあだあー!』
「いい子になってください。」
『やだよお』
早く帰ってきて!!
と大声で言ってから、
一方的に切れてしまった。