方位磁石の指す方向。
第15章 scene 14
始まった生活は、
まだまだ慣れない。
料理なんてそんなにしたことなかったし、
そもそも家事全般したことなかった。
…母さんに聞いておけばよかった。
「…あ、やべっ」
今日は、大学の入学式だ。
ここに来てから母さんや父さんが
会いに来るのは初めてだ。
あの日以来、
二宮とは連絡を取れていない。
俺は荷解き以外にすることはないが、
二宮から連絡はなかった。
…そうだ。
二宮だって、もう、三年生だ。
進路のことももう固め始めているんだろう。
「…でけぇ」
高校とは比べ物にならないほど。
人数もだ。
緊張する胸を押さえて、
変人に思われない程度に
深呼吸をした。
「…あ、母さん、父さん。」
「ひさしぶりね。」
母さんがふわりと微笑む。
俺は多分、この人の微笑みを
遺伝したんだと思う。