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方位磁石の指す方向。

第16章 scene 15


櫻井side


以前来た時よりも、
ずっと機嫌がいい二宮。

理由はわかっている。

この暮らしを、
どれほど楽しみにしていたのか。

そんなの、俺も同じだ。

会えない空白の一年間。

ずっと我慢していたのは、
二宮も俺も同じだったんだ。


「わかる?ほら…」


二宮が何かを必死に伝えようとしている。

話なんて入ってこない。

ただ、目の前の彼が愛おしくてたまらない。


「…聞いてる?」

「あ、ごめんごめん。
二宮に見蕩れてた」

「…もう」


困ったように、怒ったように、
でも嬉しそうに。

二宮は肩を竦めた。


「…好きだよ」


出会ってから、ずっと。


「ふふ、今更?」


茶化す二宮。

本当は、嬉しくて嬉しくて
仕方がないくせに。

前はこんなことですぐにむっとなった。

だけど、今は───…


「悪い?」

「くふふ、全然?」

「俺だって、ずっと好きだよ?」


アイロン台に向かいながら、
二宮の甘い声がした。

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