方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
スーパーに着くなり、
忙しなく動く二宮。
その後ろ姿を追いかけるだけで
俺は精一杯だ。
「なあ二宮、これって安いの?高いの?」
「ばっかじゃないの、
高いに決まってんじゃん。
翔さんニュース見ないの?
野菜は高いの」
何て返せばいいのかわからなくて、
ふーん、と言ったら
「興味ないなら聞かなきゃいいのに」
と二宮が少し不機嫌になった。
そういうわけじゃないんだけどなぁ。
「なぁ、二宮」
「なに」
「早くカレー食いたい」
「…はいはい」
子供か。俺は。
二宮は呆れたようにカートを押して、
先程よりも足早に歩く。
慣れたような足取りで、
人の波を交わしていく二宮。
…やっぱり主婦だ。
でもそんなこと言ったら、
間違いなく怒られる。
さっきも照れ隠しで怒られたし。
「二宮ぁー」
「はいはい」
「腹減ったー」
「…はいはい」
もう相手をするのをやめたのか、
それ以上は俺も話しかけず、
二宮の後ろをただついて歩いた。