方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
スーパーってこんなに広かったっけ。
近所のスーパーなのに、
なんだか別のところに思えた。
いつもレトルト食品のところしか
行かないからか。
「全部出すから」
「え?」
「会計、俺行く」
「え、いいよ」
悪いよ、なんて気を遣う二宮。
「あのなぁ…」
「な、なに」
「俺たち同棲してんの。
そういうのは男の俺の役目だろ?」
「俺も男だよ?」
「お前は女役なの」
「はああ?」
嫌そうに眉間に皺を寄せて
俺を睨んだ。
「大体お前、全部払うつもりなかったろ?」
「…バレた?」
「お見通しなんだよ。そんなの」
「くふふ、」
会計をしている最中も、
カートを返しに行こうとしないで、
ずっと俺の隣でにやにやしていた。
傍から見たら、
兄弟に見えるだろうか。
二宮は童顔だし、
背も小さい方だし。
それでも少し伸びたか?
「あっ、翔さん、豚肉の上に
じゃがいものせたらダメだよ!」
「は?なんでもよくね?」
「ダメだよ、もう、俺やるから!」
俺からエコバックを奪い、
慣れた手つきで詰め込んでいく。
「帰ろっか」
「おー」
二宮からエコバックを
無理やり引っ張った。
「え、なに」
「持つよ」
「いいよ」
「お前力ないじゃん」
「…じゃあ半分」
「そしたら手繋げないじゃん」
「……じゃあ俺が持つ」
「いいから、お前は甘えてろよ」
ぐいっとエコバックを引っ張り、
空いた二宮の手を包み込んだ。
いつもに増して、
強引な俺に焦っているのか、
俯いてしまった二宮。
「二宮、」
名前を呼んでも、
反応はまるでなし。
「……和也」
息を吸ってから、
小さな声で呟いた。
そうしたら、
俯いていた顔がパッと上がって
嬉しそうに微笑んだ。
「くふふ」
「なんだよ」
「ううん、なんでもない」
これが日常になるなんて、
まだ実感がわかない。