方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
二宮side
ひさしぶりにたくさん歩いたからか、
足が痛くて仕方が無い。
でもこれから、
カレーを作らなければいけない。
「翔さん」
上着をかけている翔さんに
声をかけた。
返事は背を向けたまま返ってきた。
「お風呂、沸かしておこうか」
「いや、まだいいよ。時間も早いし」
「ご飯のあとにする?」
「そうする」
「でもまだできないよ?」
「いいよ」
翔さんは肩を揺らして笑った。
その笑顔を見たら、
胸がうっすらと温かくなった。
…俺はやっぱり単純だ。
足が痛いことなんて、忘れた。
今はただ、
この人に尽くしたい。
俺にはそうする義務がある。
そんなバカげたことを思った。
本当に、バカげている。
「じゃあ、手伝ってよ」
「え?手切っちゃうよ?」
「…サラダ作るから、
野菜でも洗って千切ってて」
「はーい」
面倒だ、なんて一言も言わずに
手を洗い始めた翔さん。
やっぱり俺が選んだ男だ。
なんて自惚れていた。