方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
「ごめん…お前の気持ち考えてなくて…」
強がっていたさっきまでが嘘みたいに
涙が出る。
翔さんに対して怒ってない。
ただ、悲しいんだ。
「もう、謝んないでよ…」
俺がそう言うと、
翔さんは困ったように笑ってから
俺をそっと抱き締めた。
「ごめんな。ほんとにごめん」
何かが崩れて、
また、涙がボロボロと出てきた。
無言でしくしくと泣く俺を
愛おしそうに見つめるその瞳も。
俺の頭を黙って撫でる
優しい手つきも。
全てに、惚れているから。
惚れているからこそ、
さっきまでのことが辛いんだ。
「ごめんな…」
また、翔さんの謝る声が聞こえて、
そっと髪に口付けされた。
「ん、いい匂い…」
「…変態」
「あ、喋った」
よかった、と笑い、
陶器を扱うみたいに優しく抱き締めた。
俺もそっとその背中に腕を回した。
ふいに、目と目が合って、
急に恥ずかしくなった。
だから、俺から逸らした。