テキストサイズ

方位磁石の指す方向。

第16章 scene 15


櫻井side


もう泣かせない。

と何回も何回も思うのに、
どうしても泣かせてしまう。

嫌がる素振りが、可愛くて…

なんて言ったら、引かれると思った。

変わらなくちゃいけないのに、
同じ過ちを何度もする。


「そろそろ、できたかな…」


腕の中で二宮が呟いた。

腫れた目に触れようとすると、
少し顔を顰めた。

だから、手を引っ込めた。


「…翔さん…?」


怪訝そうに眉間にシワを寄せて、
俺を上目遣い気味に見つめた。


「…なんでもないよ」


ぱっと二宮から体を離して、
笑顔を作った。


「ご飯にしよっか」

「…うん」


まだ、怪訝そうな表情をした二宮。

背中に二宮の視線を感じながら、
カレーの匂いが立ち込めたキッチンに入った。


「ほら、いい匂いするよ」

「……うん」


まだ、機嫌が悪そうだ。


「二宮」


無反応だ。

聞こえていないのか。


「二宮」


また、無反応だ。

こうなったら…。

距離を詰めて、
二宮の頬を包んだ。

びっくりしたような顔をしたけど、
拗ねたようにそっぽを向いた。

唇が少し尖っている。


「…和也」

「ぅえっ…?」

「ご飯、食べよう」

「………うん」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ