テキストサイズ

方位磁石の指す方向。

第16章 scene 15


さっきまでとは打って変わって、
二宮は笑顔だ。


「翔さん、できたよ」

「お、ありがとう」


受け取る際に、手が触れた。

それだけで動揺しているのは
俺だけみたいだ。

俺の向かいの席に座って、
いただきます、と丁寧に両手を合わせた。

それにつられて、俺も手を合わせた。


二宮は頬の皮が薄いからか、
食べ物が入っている方がすぐ分かる。

大きなじゃがいもを一口で
食べようとしているけれど、
小さい二宮の口にはキツそうに見えた。

お互い何も喋らない。

しばしの間、それを観察しようと思った。

しかし、五分も経たないうちに、


「……何見てんの」


もぐもぐと口を動かしながら
二宮が恥ずかしそうに俺を見た。

なんて言えばいいのか、
わからなかった。

二宮が喜ぶ答えを、
言えなかった。


「目の前にいたから」

「はあ?」


意味わかんない、と言ってから、
また、二宮の口には大きすぎるサイズの
じゃがいもを放り込んだ。

そんな一つ一つの言動を見るのが、
堪らなく好きだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ