方位磁石の指す方向。
第16章 scene 15
「お腹いっぱい…」
麦茶の入ったグラスを片手に、
二宮はソファーに腰掛けた。
「ねえ翔さん」
「ん?」
「俺たち付き合って、
もう三年目だね」
ふいに、そんなことを言ってきた。
意識したことはなかった年月。
「そんなになったんだな」
「ね、不思議だよね。
ほんと一瞬だった気がするよ」
「そうだな」
肩に二宮の頭が乗った。
ふわりと香るソレが、
二宮の匂いだとわかった。
シャンプーじゃない。
柔軟剤でもない。
二宮特有の匂い。
この石鹸のような匂いが、
いつも俺の理性を崩しにくるんだ。
「なんかわかんないや」
「え?」
「翔さんのことが好きすぎて、
頭ん中ぐちゃぐちゃだよ」
「…そりゃどーも」
「褒めてるからね?」
二宮は笑って、俺の手を取った。
動揺している俺に向かって、
にっこりと微笑んで
「この長い指が好き」
「この爪の形も好き」
「このあったかい手が好き」
と、愛おしそうに見つめていた。