方位磁石の指す方向。
第4章 scene 4
千晴んちに行ったけど、
千晴のお母さんが
「勉強が忙しいから、
今日はだめだって…
ごめんね。
また来てね。」
そう言われて、
俺は大人しく家に帰った。
…だけど。
玄関には、誰かの靴と、
母さんの靴。
静かに部屋で待ってれば
いいかなって思ったんだ。
「あっ…」
…でも。
聞こえてきた声に、
耳を澄ませた。
母さんの声だけど、
いつもの母さんの
声じゃない。
子供のときの、
純粋なドキドキ感が
沸いてきたんだ。
…なにをしているん
だろうって。
足音を立てないように
ゆっくり歩いた。
バレないように。
バレないように。
「いいっ、もっと…」
…え?
母さんは、用事があるって
言っていた。
なにしてるのか。
話し合いにしては、
おかしな声だ。
なんだか怖くなって、
部屋に戻った。
母さんが、母さんじゃ
なくなってしまっている。
怖い。
…怖かったんだ。
その感情が、
俺を支配していた。