
龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第1章 落城~悲運の兄妹~
「―!!」
一瞬、ジュッと何とも耳障りな音がして、肉が焼けた。千寿は思わず耐えがたい激痛とひりつくような感覚に小さな呻きを洩らし、顔をしかめた。
背中が燃えるように熱い。それでも、気丈にも涙を見せまいと、必死で唇を噛みしめる。あまりに強く噛んだので、内側が切れたのか、鉄錆びた血の臭いが口中にひろがった。
「ホウ、これはまた、気丈なことだ。これほどの拷問を受けても、涙ひと粒見せぬとは」
苦悶を堪(こら)える千寿を、嘉瑛は真上から眼を眇めて眺めていた。その眼は何ものかに憑かれたような光を宿し炯々と輝いている。まさに、狂気に囚われた者の瞳そのものであった。
唇を噛みしめて痛みに耐えている千寿の背中に、更に強く鉄の塊が押しつけられる。
「う、うわぁー」
ついに千寿はたまぎるような悲鳴を上げた。
嘉瑛は、千寿の反応を確かめるかのように、手にした鉄鏝をゆっくりと動かす。千寿はしばらく呻き声を上げていたが、やがて、そのか細い首がカクンと床に落ちた。
あまりに烈しい痛みに、気を失ったのだ。
「そなたは勘違いをしているようだ。男というものは刃向かわれれば刃向かわれるほど、逆に嬲り尽くし、とことんまで相手を貶めてやろうと残酷になるものだぞ?」
手応えを愉しむ顔つきで、嘉瑛は打ち伏したままの千寿を上から覗き込んだ。
「飼い犬は従順であらねばならぬ。そちももう少し、利口になって従順さを身につけた方が良いな」
〝気を失うたか〟と、いかにもつまらなさそうな呟きと共に、嘉瑛はもう千寿には興味を失った様子でさっさと牢を出てゆく。
嘉瑛の姿が見えなくなるや、一部始終を見ていた牢番たちが恐る恐る千寿に近寄ってきた。
「おい、死んだのか?」
「まさか、これくらいで死にはしないだろう」
二人は顔を見合わせると、どこからか冷たい水を汲んできて、水に浸した手ぬぐいで千寿の背中を冷やしてくれた。
辛うじて意識を保った状態で、千寿は牢番たちが代わる代わる背中を冷やし、最後に薬草をたっぷりと塗った上に包帯を巻いてくれたのを認識していた。いや、認識していたというよりは、どこかに別のもう一人の自分がいて、その別の自分が二人に介抱されている自分を眺めている―といった感じだった。
一瞬、ジュッと何とも耳障りな音がして、肉が焼けた。千寿は思わず耐えがたい激痛とひりつくような感覚に小さな呻きを洩らし、顔をしかめた。
背中が燃えるように熱い。それでも、気丈にも涙を見せまいと、必死で唇を噛みしめる。あまりに強く噛んだので、内側が切れたのか、鉄錆びた血の臭いが口中にひろがった。
「ホウ、これはまた、気丈なことだ。これほどの拷問を受けても、涙ひと粒見せぬとは」
苦悶を堪(こら)える千寿を、嘉瑛は真上から眼を眇めて眺めていた。その眼は何ものかに憑かれたような光を宿し炯々と輝いている。まさに、狂気に囚われた者の瞳そのものであった。
唇を噛みしめて痛みに耐えている千寿の背中に、更に強く鉄の塊が押しつけられる。
「う、うわぁー」
ついに千寿はたまぎるような悲鳴を上げた。
嘉瑛は、千寿の反応を確かめるかのように、手にした鉄鏝をゆっくりと動かす。千寿はしばらく呻き声を上げていたが、やがて、そのか細い首がカクンと床に落ちた。
あまりに烈しい痛みに、気を失ったのだ。
「そなたは勘違いをしているようだ。男というものは刃向かわれれば刃向かわれるほど、逆に嬲り尽くし、とことんまで相手を貶めてやろうと残酷になるものだぞ?」
手応えを愉しむ顔つきで、嘉瑛は打ち伏したままの千寿を上から覗き込んだ。
「飼い犬は従順であらねばならぬ。そちももう少し、利口になって従順さを身につけた方が良いな」
〝気を失うたか〟と、いかにもつまらなさそうな呟きと共に、嘉瑛はもう千寿には興味を失った様子でさっさと牢を出てゆく。
嘉瑛の姿が見えなくなるや、一部始終を見ていた牢番たちが恐る恐る千寿に近寄ってきた。
「おい、死んだのか?」
「まさか、これくらいで死にはしないだろう」
二人は顔を見合わせると、どこからか冷たい水を汲んできて、水に浸した手ぬぐいで千寿の背中を冷やしてくれた。
辛うじて意識を保った状態で、千寿は牢番たちが代わる代わる背中を冷やし、最後に薬草をたっぷりと塗った上に包帯を巻いてくれたのを認識していた。いや、認識していたというよりは、どこかに別のもう一人の自分がいて、その別の自分が二人に介抱されている自分を眺めている―といった感じだった。
