龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第2章 流転~身代わりの妻~
千寿は咄嗟に花器から海芋の花を全部引き抜くと、縦横無尽に振り回した。
十本余りある海芋の花を束にして振り回されては、嘉瑛も迂闊に近付いてはこられない。
嘉瑛が舌打ちを聞かせ、露骨に顔をしかめた。
やたらと振り回している中に、海芋の花が一輪、また一輪と茎の途中からぽっきりと折れてゆく。千寿の眼に、無惨な姿となり果てた花たちが今の自分の姿と重なった。
最後に残った一本を千寿から奪い取ると、嘉瑛が甲走った声で言った。
「全く、余計な手間ばかりかけさせる奴だ」
「お願いだから、こんなことは止めてくれ。私は―厭なんだ。私が眼触りだというのなら、ひと想いに殺しても良い。どんな残酷な殺し方でも構わないから、殺して貰った方が良い。だから、これだけは許して欲しい」
千寿はしゃくり上げながら、部屋の隅へと後ずさる。
「殺したりするものか、そなたは俺の可愛い妻だ。これからは毎夜、たっぷりと閨で可愛がってやるさ」
嘉瑛が熱にうかされたような口調で言った。
とうとう追いつめられた千寿は絶望の声を上げる。再び抱き上げられ、褥へと運ばれながら、千寿は大粒の涙を零した。
逃げたいのに、逃げられない―。
襟元をグッと力を込めて開かれたかと思うと、再び男の貌が近付いてきた。小さな胸の尖りを強く吸われた刹那、千寿の身体にこれまで体験したことのない感覚が走った。あるときは強く、あるときは舌で優しくなぞるようにと、嘉瑛は口で千寿の小さな胸を思う存分愛撫した。
死ぬほど厭なのに、何故か、胸の先端を吸われ続けていると、身体中を得体の知れない妖しい震えが駆け抜けてゆく。
その未知の感覚がそも何なのか。そのときの千寿にはまだ知る由もなかった。
涙の滲んだ眼に、天井がぼやける。ふと、覆い被さっていた嘉瑛が身を離した。やっと辛い責め苦から解放されたのかと千寿が安堵した時、嘉瑛が自らも帯を解き、夜着を脱ぎ捨てた。屈強な身体が現れる。
流石は戦国最強のもののふ、戦神と呼ばれるだけあって、鍛え抜かれた均整の取れた身体は見事なものであった。
嘉瑛はこの時、二十七歳になっている。
十本余りある海芋の花を束にして振り回されては、嘉瑛も迂闊に近付いてはこられない。
嘉瑛が舌打ちを聞かせ、露骨に顔をしかめた。
やたらと振り回している中に、海芋の花が一輪、また一輪と茎の途中からぽっきりと折れてゆく。千寿の眼に、無惨な姿となり果てた花たちが今の自分の姿と重なった。
最後に残った一本を千寿から奪い取ると、嘉瑛が甲走った声で言った。
「全く、余計な手間ばかりかけさせる奴だ」
「お願いだから、こんなことは止めてくれ。私は―厭なんだ。私が眼触りだというのなら、ひと想いに殺しても良い。どんな残酷な殺し方でも構わないから、殺して貰った方が良い。だから、これだけは許して欲しい」
千寿はしゃくり上げながら、部屋の隅へと後ずさる。
「殺したりするものか、そなたは俺の可愛い妻だ。これからは毎夜、たっぷりと閨で可愛がってやるさ」
嘉瑛が熱にうかされたような口調で言った。
とうとう追いつめられた千寿は絶望の声を上げる。再び抱き上げられ、褥へと運ばれながら、千寿は大粒の涙を零した。
逃げたいのに、逃げられない―。
襟元をグッと力を込めて開かれたかと思うと、再び男の貌が近付いてきた。小さな胸の尖りを強く吸われた刹那、千寿の身体にこれまで体験したことのない感覚が走った。あるときは強く、あるときは舌で優しくなぞるようにと、嘉瑛は口で千寿の小さな胸を思う存分愛撫した。
死ぬほど厭なのに、何故か、胸の先端を吸われ続けていると、身体中を得体の知れない妖しい震えが駆け抜けてゆく。
その未知の感覚がそも何なのか。そのときの千寿にはまだ知る由もなかった。
涙の滲んだ眼に、天井がぼやける。ふと、覆い被さっていた嘉瑛が身を離した。やっと辛い責め苦から解放されたのかと千寿が安堵した時、嘉瑛が自らも帯を解き、夜着を脱ぎ捨てた。屈強な身体が現れる。
流石は戦国最強のもののふ、戦神と呼ばれるだけあって、鍛え抜かれた均整の取れた身体は見事なものであった。
嘉瑛はこの時、二十七歳になっている。