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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼

❦和也side❦



翔様の膝に抱かれ、共にピアノを弾けば
固く閉ざした心に温かなものが流れ込んで
僕をゆっくり溶かしていく




「和也が辛い時に
傍に居てやれなくてごめんな」


優しく頭を撫でるその手に
また涙が溢れた

温かい…

涙を温かいと感じたのは何日ぶりだろうか


「うわっ!…ごめんっ!
俺、なんか泣かすようなこと言ったか?!」


あたふたする翔様が可笑しくて
思わずふふっと笑ってしまうと


「ちょ…!和也っ!なんで笑うかなぁ!」


今度は怒ってしまわれた


「ふふっ。申し訳ありません、翔様
翔様があまりにも…」

「あまりにも…?」


「可愛いらしくて、つい」

「かっ、可愛…」


お口をポカンと開けて赤い顔をされているお姿を見たら
あれほど頑なに“モノになる”と決めた筈の思いが
翔様によっていとも簡単に崩されてしまったことに気付いた


「翔様。お願いが御座います」

「うん?何?」


「もう一度…ぎゅっと、抱きしめてくださますか…?」

「そんな頼み事なら願ったり叶ったりだ
おいで。和也」


大きく広げられた腕の中へ甘えるように埋もれると
トク、トクと速まる翔様の心臓の音が聞こえて
笑みが溢れる


「翔様…」

「…好きなだけこうしてな
和也の気の済むまで」

「嬉しい…翔様…」


翔様は何も言わず
何も聞かず
ただただ僕を抱きしめて
そっと髪を撫でてくれていた















「…そうか、辛かったな…」


決して他言してはならないと分かってはいたのに
翔様には、全て話して楽になってしまいたかった


「その方が最後に僕に仰られたお言葉は
『頑張れ』でした…」

「和也がこの仕事を頑張るってことは
お前に惚れてる俺にとっては辛いことだよ
その魅陰の彼が和也に伝えたかったことは
ただ、頑張れってことじゃなくて
もっと深いんじゃないかな」

「深い…?」

「うん。
例えばそうだな…
彼自身が、此処で頑張った先に見ていたものがあって
それを最後に和也に託したとか…ね」

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