びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】
第1章 かりそめの遊艶楼
裕様が僕に託したこと…
思い当たることは何もなかった
一体なんだろうか
それまで考えることを拒んでいたあの時のことを思い出した
『裕はね、あの着物に一目惚れをして
この楼を出る時にこれを着るんだ、って言ってね
一度も袖を通さずに、それはたいそう大事にしていたんだよ
そんな裕の想いがわかるかい…?』
「あっ…」
「何か思い出した?」
「雅紀さんが仰っていました…
その方は、最後にお召しになられていたお着物を
この楼を出る時の為に大切にされていたと…」
「なぁ、和也
それってさ…」
「えっ…?」
「彼、本当は幸せになって此処を出たかったんじゃないかな」
「幸せに…?」
「それが叶わなかったから
和也にはそうなって欲しかったのかも知れないよ?」
「僕に…幸せになって、楼を出て欲しいと…?」
借金がある者も無い者も
此処を出られる術はたった一つ
「身請け…」
「身請け?」
「借金の他に、死ぬまでに此処で稼ぐ以上の大金を払い
お客様が魅陰を買い取ることを身請けと言うのです」
想う方に身請けされるとは限らないけれど
もし、そうであったなら
この上なく幸せなこと…
「そうか…
彼はきっと、好きな人に身請けされて
大切にしていた着物を着て此処を出たかったんだね」
魅陰として生きている以上
全ては戯れ、かりそめだと
皆、人生を諦めて生きているものだと思っていたけど
裕様は夢を抱いておいでだったのですね…
もしかしたら僕が知らないだけで
他の魅陰達の中にも同じ想いの者が居るのかもしれません…
「和也は…どうなんだ?」
「えっ」
「身請けの事、考えたりするのか?」
「僕は…」
もしもそんなことがあるのならば
お相手が翔様であれば
この上なく幸せだろう
「もし、俺が和也を身請けすると言ったら…?」
「翔様…!」
「そしたら和也は
幸せだと思ってくれるかい…?」
翔様が真剣に僕を見つめた
「もしもそのようなことになったとしたら
真に…真に、幸せで御座います」
「そうか…」
ふわりと笑んで
また僕をぎゅっと抱きしめた
「今すぐに、とはいかないけど
身請けって制度がある事を知ったからには
頑張るよ、俺」
「えっ…?」
「それまで待っててくれるか? 和也」
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