びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】
第1章 かりそめの遊艶楼
「櫻井様、お時間でございます」
もうか…風呂から上がって間もないのに
和也といると時間の感覚が鈍ってしまう…
「また来るよ、和也」
頭を軽く撫でてから
部屋子に次いで蜩の間を後にした
いつも通り楼を出ようとして足を止める
「…どうかなさいましたか?」
「あ…いや…」
側にいるこの番頭は
知ってるんだろうな…そりゃ
勘定をしてる時から、浮かんでいた疑問があって
「あのさ…ちょっと聞きたいんだけど…」
ちゃんと前置いた台詞を吐いてから、本題を切り出した
「ここの魅陰を…身請けできるって、本当か?」
「…っ…」
言った途端
さっきまで普通だった番頭の顔が少しずつ変わり始めた
その変化に、いきなりすぎたかと思っていたら
一呼吸置いて"本当です"と答えが返ってきた
「じゃあ例えば…俺が魅陰を身請けすると言ったら…
いくら払えばいいんだ?」
前のめりになって相手に言い寄ると
その勢いに、と言うよりその質問に
嫌そうな表情を浮かべ、俺から顔が逸らされた
下唇を何回も噛んで
明らかに悩んでいるような仕草を見せて
「例えばって……和也、ですか?」
やっと出された問い
それに頷くと
「そうですか……」
酷く苦しそうに答えて…
俺の答えが、そんなにまずかったんだろうかと思ってしまう
「…申し訳ございません
身請けの話はございますが…お教えすることは…できません」
「え…言っちゃいけない決まりなのか?」
「……いえ」
「楼主に止められてるとか?」
「…いえ」
「金額を、知らないのか?」
口を結んで首が横に振られる
じゃあ…と言葉を紡いだが、金額は教えられないの一点張りだった
なぜなのか分からなくて
言えない理由が分からなくて
それでも根気強く聞いてみたけど…無駄だった
「またのお越しを、お待ち申し上げております」
まるで追い出すかのように扉が開けられ
俺は渋々、外に出る
扉が閉まる直前
番頭の顔が悲しみに歪んでいるのを見た
「あいつ…」
いや…ないない
番頭のあの青年が、魅陰の和也を…なんて…
考えるな
何も番頭に聞かなくても、他に人はいる
次来た時に聞けばいい
それでいい…必要なことなんだ
和也も、俺も
その日が来るのを強く…強く…望んでるんだから
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