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びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】

第1章 かりそめの遊艶楼




「ぼっ…僕で御座いますか?!」


光一の視線の先に居たのは和也だった


「お待ちくださいませ、光一様!
この者が太夫に適任だと仰られるのですか?!」

「遺憾です!作法の一つもままならない新人ですよ?!
何故この様な者を…!」


「静粛に。
光一の意見を聞こうじゃないか」


楼主が一喝すると
ざわめきが静まったところで
光一が口を開いた


「兼ねてから、思うていたのです
見世に上がってお客人を待つ間の、魅陰達の下品な私語
そして、お客人が見えた時の下品な声色…
お客人に媚を売る者が数多く居る中で
和也はそういった事を一切せずに、いつも前を見据えて凜としております

裕も申しておりました
和也には敵わないと
あの子には素質がある
自分と違うてきっと立派な太夫になるでしょうねと
目を細めて…穏やかな顔をして」


光一の言う事に
今度は誰も反論など出来なかった


「私も、和也が適任かと存じます」

「藍姫様…」

「和也には素質があります故
ねぇ?雅紀さん」

「…あぁ、」


「和也」

「…はい、」


「これより、太夫の称号を和也に任命する
牽いては本日中に源氏名を与えることとしよう
異論は無いな?」

「はい…」


「和也
よろしゅう頼みますね」

「藍姫様…
精進致します。宜しくお願い致します」

「和也
仲良うやりましょうね」

「琥珀様…
精一杯努めます故、」


ポツリポツリと拍手が起こり
和也はこの日、この時を境に
藍姫、琥珀と共に
太夫としての道を歩むことと相成った









「雅紀、良かったのか…?」

「複雑といえば複雑だけど…でも、」


思うところがあった
太夫ともあれば、身請け金は一気に跳ね上がるはずだ


「ねぇ、まぁ兄
和也の身請け金額を上げないとだよね?」

「あぁ、そうだな」

「どうする?
…実は先日、櫻井様に聞かれてね、」



「お前が決めろよ、雅紀」

「えっ…俺…?」


「簡単に身請けされちゃ、困るのはお前だろ?
一任するよ」

「…ありがとう、まぁ兄…」



思いもかけない誤算だった。
…これで、和也を手放さなくて済むかもしれない…



それからその日は一日中バタバタと慌ただしかった
光一の断髪を行い
蛻の殻となった神楽の部屋には
光一のお下がりの着物と和也の持ち物が運び入れられた

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