びゅーてぃふる ❦ ふれぐらんす【気象系BL】
第1章 かりそめの遊艶楼
「いいだろう」
「ちょっ…!待ってください!」
「不服か?雅紀」
「…っ、」
櫻井様が僕を指名してくださってることは
きっと楼主様は知らない
「決まりだ」
「ありがとう御座います」
僕の源氏名は『奏月』
部屋の名は『櫻の間』に決まった
太夫になるということは
お客人の僕を買う金額もうんと高くなるのだろう
「翔様…」
翔様は変わらず僕に会いに来てくれるのだろうか…
櫻の間は蜩の間とは違い
居間も褥部屋も風呂場も広く、
風呂の窓からは月がより一層近く、綺麗に見えそうだ
「早く…お会いしたい…
共に月を愛でとう御座います、翔様…」
見世に並ぶことなく部屋に篭もりきりの太夫は
指名が入らなければ思いの外、時間がある
その空いた時間に
雅紀さんから与えられた読み書きと算数のドリルに励み
息抜きに翔様の想いが詰まったピアノを弾く
藍姫様や琥珀様の身のこなしを真似
茶道や華道、書道も習った
慣れなかっただだ広い部屋にも
高価な布団にも慣れ
『僕』から『私』へと言葉遣いを変えた
「誰〜だ♪」
「ひゃっ! 琥珀様…?」
「ごめんね、驚いた?」
琥珀様は天真爛漫で悪戯がお好き
「算数ドリル?」
「はい。私には学が有りませぬ故、」
「どこがわからないの? 教えてあげるよ」
琥珀様は御年十七
中学二年までは学校にも通われていたそうだ
「二桁の引き算?
これはほら、十の位から十借りてきて…」
琥珀様の教え方はお上手で
躓いていた二桁の計算も直ぐに出来るようになった
「ありがとう御座いました、琥珀様」
「ふふっ。じゃあ…お礼、ちょうだい?」
「お礼で御座いますか、」
差し上げられるものなど何も無く
どうしようかと迷っている時
「んっ」
琥珀様の唇が僕の唇に触れた
「和也、可愛い」
「琥珀様っ…!」
「二人きりの時は
『健ちゃん』って呼んでね?
また勉強教えに来てあげる」
目を丸くする僕を他所に
じゃあまたね、とご機嫌な様子で
琥珀様が藤の間へと帰られた
「奏月様、櫻井様よりご指名をいただきました」
襖の向こうから聞こえた慧の声に
思わず胸が高鳴る
「承知しました」
太夫になってから二週間余り
待ちわびていた想い人にやっと会えるのだ
嬉しい… 翔様…
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