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レット・ミー・ダウン【ARS・NL】

第4章 モーニングセット【翔】

常連客のサラリーマンたちは、モーニングを食べ終わるとあわただしく出勤していく。

「ごちそうさま、○○ちゃん。いってきます!」

「ありがとうございました。ナベさん行ってらっしゃい!」

バタバタと忙しい客の応対も一段落したころ、窓際の席のあの客も食事を終えて勘定をしにカウンターに来た。

お釣りを手渡すと、客は無造作に小銭をジャラッと財布に入れると、小さな声で「ごちそうさまでした。」とつぶやいて出て行く。

ここ数ヶ月前から、時々やってくる。

いつも帽子と眼鏡を身につけ、新聞を手に一番奥の窓際の席に着く。

ゆで卵のAセットではなく、目玉焼きのBセットを注文する。

コーヒーは、最近暑くなってホットからアイスに変わった。

しかし、必ずブラックで飲む。

ぷっくりとしたサクランボのような唇に、眼鏡の奥のクリクリした黒い瞳。

必要以上のことは決して話さず、ただ新聞やタブレットを見ながら食事をとる。

私も、決して彼には話しかけない。

だけど、私は彼の名前を知っている。

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