レット・ミー・ダウン【ARS・NL】
第9章 コッペパン【和也】
二宮さんがフロアに立つと、曲が変わった。
80年代のユーロビートだ。
二宮さんは、あたりをひとまわり見渡すと、曲に合わせて踊り出した。
身体を揺らし、曲がサビにかかると腕をあげ、手を頭の後ろで組んだ。
そのまま後ろ髪をかきあげ、腰を回した。
私は息が止まりそうになった。
目の前の彼は、薄暗い経理室で背中を丸めてコッペパンをかじっている彼ではなかった。
香り立つ色気を振りまく踊り子のようだった。
曲が終わり、二宮さんは動きをやめるとまたあたりを見渡し、こちらに戻って来た。
もといたソファにどっかと腰を下ろすと、再びゲームを始めた。
◯「あの…。」
二宮さんが、こちらを見た。
二宮「何さ。」
◯「ダンス、上手いんですね。」
二宮「あんたが〝踊らないのか〟と聞いたから踊っただけだよ。文句ないだろ?」
不機嫌そうに答える彼は、薄暗い経理室の彼に戻っていた。
◯「あの、二宮さんて、魔法使いなんですか?」
二宮さんは、飲みかけたビールを吹き出した。
二宮「魔法使いって、何だよそれ!」
◯「みんなが言ってて…、あっ!」
そこまで言って、これは大変な失言だと気がついた。
◯「ごめんなさい、あの、忘れてください!」
私は何度も頭を下げた。
二宮「魔法使いって、あれか? 30歳まで未経験だったらっていう…? 俺、そんなこと言われてんの!?」
◯「ごめんなさい! ごめんなさい!」
私は平謝りした。
二宮さんは、しばらく私をじとーっと眺めたあと、すっと眼鏡を外した。
二宮「じゃあさ、確かめる? 俺が魔法使いかどうか…。」
80年代のユーロビートだ。
二宮さんは、あたりをひとまわり見渡すと、曲に合わせて踊り出した。
身体を揺らし、曲がサビにかかると腕をあげ、手を頭の後ろで組んだ。
そのまま後ろ髪をかきあげ、腰を回した。
私は息が止まりそうになった。
目の前の彼は、薄暗い経理室で背中を丸めてコッペパンをかじっている彼ではなかった。
香り立つ色気を振りまく踊り子のようだった。
曲が終わり、二宮さんは動きをやめるとまたあたりを見渡し、こちらに戻って来た。
もといたソファにどっかと腰を下ろすと、再びゲームを始めた。
◯「あの…。」
二宮さんが、こちらを見た。
二宮「何さ。」
◯「ダンス、上手いんですね。」
二宮「あんたが〝踊らないのか〟と聞いたから踊っただけだよ。文句ないだろ?」
不機嫌そうに答える彼は、薄暗い経理室の彼に戻っていた。
◯「あの、二宮さんて、魔法使いなんですか?」
二宮さんは、飲みかけたビールを吹き出した。
二宮「魔法使いって、何だよそれ!」
◯「みんなが言ってて…、あっ!」
そこまで言って、これは大変な失言だと気がついた。
◯「ごめんなさい、あの、忘れてください!」
私は何度も頭を下げた。
二宮「魔法使いって、あれか? 30歳まで未経験だったらっていう…? 俺、そんなこと言われてんの!?」
◯「ごめんなさい! ごめんなさい!」
私は平謝りした。
二宮さんは、しばらく私をじとーっと眺めたあと、すっと眼鏡を外した。
二宮「じゃあさ、確かめる? 俺が魔法使いかどうか…。」