テキストサイズ

異彩ノ雫

第44章  intermezzo 無窮の風景




私はここに立ち続けている
長く 長く…

夏の強い日差しの中
多くの旅人が涼を求め
足をとめた

疲れはて 暗い瞳の色…
何処から来 何処へ向かうのか
しばしの後にはまた立ち上がり
歩み始める孤独な背中

秋には若い恋人たちが見つめ合い
時を忘れ愛を語る

やがて白い冬が訪れ
肩をすぼめた男や
ショールに顔を埋めた女たちが
足早に行き過ぎた

ひと気の絶えた凍夜
さざめく星の声に耳を傾ければ
ひとりある身の切なさが
胸にしみる

私はどこから来たのだろう…

それでも
いつしか花は笑う

小さな命のはしゃぐ声
それを追うせわしい足音
陽は惜しみなく降りそそぐ

そして、私は立ち続ける
昨日よりわずかに枝葉を伸ばし…







(了)


ストーリーメニュー

TOPTOPへ