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異彩ノ雫

第50章 intermezzo 隠れ鬼




モルゲンロート…
晴れ渡る山の朝は美しい

空模様を眺めるばかりだった彼の目に
すべての景色が煌めいて映る

花を摘み 木の実を集め
歌を口ずさむ少女

日暮れを惜しみ
朝を待ちわびるほどに
少女との明け暮れが
ジャコモの心に豊かな詩を刻んでゆく

けれど…

── この洞窟には
七色の光を放つ石が隠されている
ナイショでおまえにみせてやろう
隠れ鬼をして
俺を見つけることができたらな

少女は瞳を輝かせ
言われるまま十を数えて振り返る

── ジャコモ、どこ?

── 探してごらん、嬢ちゃん
俺はここだ…

少女は声を頼りに山の細道を歩き出す

冴えた空気
枯れた葉の匂い
頬を染め息を弾ませる少女は
川のせせらぎに混じり
近づいては遠のく声を追いかけた


『いたぞ、こっちだ』
陽が高々と南にかかる頃
少女は里の人々に囲まれていた

歓喜と興奮の渦の中
それでも少女は呼び続ける

── ジャコモ…ジャコモ……

耳をくすぐる声の愛おしさ


岩影深くうずくまり
固く目を瞑る彼の大きな背に
今年初めての雪が舞い降りる







(了)


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